表具
古来より行われてきた経師の仕事は、中国や朝鮮から伝来したお経が痛まないように巻物や折本に仕立てることにはじまりました。
その後、和室の普及に伴い掛軸・屏風などの調度品や間仕切りとして襖や障子など表具の仕事の範囲が広がってきました。最近は建築様式やライフスタイルの変化から、洋間に用いるクロス張りなど、部屋の装飾も仕事の一つです。
そうした中、近年は安価なものに走り、本物の需要が減少する傾向も見受けられ残念です。
表具師(経師)の仕事が最も繁栄されているのが表装です。
表装とは書画をその作品に相応しい掛軸などに仕立てることです。作品の裏に和紙を張り補強します。この時使用する糊は小麦粉から作る生麩糊です。布に紙で裏打ちをする時は、粘性の強い炊き立てのものを使用します。紙と紙を接着する二回目以降は、5~10年熟成させた粘性の弱い糊を使用します。粘り気が強すぎると反りやねじれが生じたり、巻いた時に折れやひびが生じたりします。また、弱い粘性でもきちんと接着するよう刷毛でたたいて仕上げるのも技の一つです。たくさんの工程を経て仕上げた掛軸は百年近くもち、痛んだら水で糊をゆるめて裏打ちを剥がし修復することが可能です。
昨今では化学糊も使用していますが、使い方を間違えなければ将来の修復も可能です。ただ機械でプレスする方法では水による剥離は不可能で、修復することは困難です。職人大学校では若い職人に糊の作り方を教えると同時に、様々な条件を変えて最も表具に適した糊作りの方法を調べることも行っています。
また、掛軸には多くの決まり事があります。時代背景や寸法など表面から見えるところや使用する紙など、昔からの基本を知っていなければなりません。例えば、本紙(作品)を飾る裂地の選定を間違えると大変です。表具が本紙より目立っては何の意味もありません。
表具の職人には署名や印譜で作家や年代を判断できる知識なども求められます。最近では洋間にも飾れるよう現代的に形を変えた創作表具も作られますが、古来伝わる技術の中で作らなければなりません。
掛軸と同様、襖にも表具職人の腕がかかっています。
襖の下張りには反故紙などを使います。木地や下張りといった土台が良ければ長い年月上張りを張替えるだけで持ちます。古い襖には片面で8~9枚の下張りを施してあります。これらも一枚一枚糊が乾くのを待ち貼り重ねる根気のいる作業です。
しかし、現在ではこのように手間、時間のかかる仕事の需要は少なく、早く、安く上張りさえ良ければいいという仕事が増えており、若い職人は経験するチャンスが少なく技が受け継がれていかない状況になっています。
一方、住宅関連で環境ホルモンなどが問題視され、クロスに変り和紙の壁紙の需要も増えています。和紙を壁に貼るには襖と同様に下張りが必要です。薄く軽い紙を貼る技術は、表具職人だけがもつ特技です。
藩政期の美術・工芸品の発達により京都・江戸などと共に栄えてきた金沢の表具技術を伝えること、時代の流れに呼応した柔軟な感覚を身に付けることが出来る職人を職人大学校では育てています。